第6話 「在ることの意味」

 長閑な光が差し込む広い仕事部屋——そこは「アステルリィン」にある教団、アヴェリテルの心臓ともいえる場所。その中にある窓際の机で、青いウェーブのかかった髪を高い位置に纏めた女性が書類にサインをしていた。
 これが彼女の主な仕事。左手に握ったペンがまた紙の上を滑った時、彼女の後ろに人影ができた。

「お忙しいところ、失礼いたします」

 人影は金髪の長髪を後ろで一つに結いている緑の瞳の男性だった。女性よりも彼の方が背が高く、腰をやや折って話しかけている。
 金髪の男性は手に持っている書類を差し出しながら顔を歪めた。

「彼奴、また面倒事を持ってきたようです」

 あいつ、と言っただけで誰のことを指すのかがわかった女性は、ふと優しく笑いながら書類を受け取る。
 そのまま視線を書類へ向けるかと思われたが、それをすることなく机へ置かれた。

「いいじゃありませんか。それよりもあの子達が無事なことが私は嬉しいです」

 にこりと笑いながら言われることに、男性が「しかし」と小さく声を出す。じっと女性の深い蒼の瞳を緑が見つめた時、部屋の扉がノックされる。
 それに男性はため息を吐いて、自身が携える剣に手を添えた。

「入れ」

 言葉に扉が開かれる。入ってきたキト達は男性と女性の前まで来て足音が止む。
 テーブルを挟んで五人が向き合えば、急にキトが跪き、続けてコルも青い絨毯が敷かれた床にぺたんと座る。ここではこうするのが最適かと、慌ててフェリアも体を折った。

「ただいま戻りました、ミスティア様」

 跪き顔を伏せたままのキトの声にミスティアと呼ばれた女性が椅子に座ったまま優しく微笑む。その女性の隣には金髪の男性──ロゼリウスが眉を顰めながら立っていた。

「お帰りなさい、キト。貴方達が無事でよかった」
「ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。無事、コルを見つけてきました」
「コルもお帰りなさい。あまりキトを心配させてはいけませんよ?」

 ミスティアの言葉にコルが静かに頷く。そして彼らに楽にするようにと告げ、蒼の瞳にフェリアを映してまた笑った。

「そして、そちらの貴女は?」
「あ……、私はフェリアと申します」
「フェリア……さん」

 名前にぴくりと反応するが、すぐに笑顔へ戻る。
 そして視線をキトへ投げかけて、小さい唇がまた動く。

「キト。彼女の手錠を外してあげてください」

 言葉にロゼリウスが小さい声をあげて、キトは顔を上げてしまう。そんな彼らを見ても、ミスティアの様子は変わらなかった。

「しかし彼女は──」
「大丈夫です。害にはならないと私が保証します」

 穏やかに顔をふにゃりとしながら、手を挙げつつそう言うが、キトもロゼリウスも心の中では正体不明の人物を縛る手錠を外すなど正気の沙汰ではない、と思っていた。
 そのことを口に出そうとしたが、ミスティアの雰囲気は有無を言わさないもの。ぐっと脚に添えた手に力を込めて、キトはゆっくりと頷いた。

「……ミスティア様の思うままに」

 そう言ってキトは立ち上がり、フェリアの側へ寄って、彼女の腕についている手錠を外した。じゃらりと鳴るものをしまうと、ぽつりと呟く。

「いきなりこんなものを嵌めてすまなかった。羽が生えているものは保護するのが決まりだから……」
「いえ、大丈夫です。キトは何も悪くないですよ」

 窮屈な思いをさせたのに。だのにそんなことは気にしないと言うかのように、にこりと笑うフェリアに、どきりとキトは心を揺らす。
 そんなふたりにふふ、と笑うと、ミスティアは自分の手を前で組んで質問を投げた。

「さて、貴女には羽が生えていますが……立派なその羽はまさか天、」
「いえ。私はただの鳥です」

 ミスティアの言葉を遮ってフェリアは答える。それにロゼリウスが腰に携えている剣に添える手を僅かに動かした。
 ちゃり、と鳴る剣は今にも引き抜かれそうなものだったが、ミスティアが静かに手をあげる。

「ロゼ。いいです」

 す、と手を出しながら制するミスティアに、ロゼリウスは厳しい表情のまま、静かに手を下ろす。
 しかし視線はきつく強く。フェリアを見つめたまま。

「そうですか。ではどうして貴女はここに?」

 言葉にぴくりと揺れる細い肩。静かに開かれる口に、真剣な瞳が見える。

「……私には目的があります。それは後に訪れる〝災厄〟を阻止すること」

 フェリアの言葉に全員が反応する。この街を守護している団体——キトが所属している「アヴェリテル」の情報員からでもそんなことは聞いていない。
 初めて聞く情報。しかし驚く様子もなく、逆に蒼の瞳はすべてを見透かしたように、質問を続けた。

「その災厄──とは?」
「それは……言えません。説明が……難しいのです」

 厳しい表情のまま質問に答えていたが、ふと紫水晶はキトを見つめる。その瞳にキトは顔を歪めた。
 その瞳はまるで。自分のことを護るように見つめているからだ。
 どうしてそんな瞳をするのだろうかと思いつつも。哀しそうにも見える紫水晶に胸を締め付けられた時、動かなかったものの口が微かに動き始める。

「それで見逃せ──と? そんな事が通るか」

 ミスティアのそばに控えていたロゼリウスは静かに話を聞いていたが、ついに堪えきれなくなったようだ。厳格な彼の性格上、辻褄が合わない言葉は見過ごせない。
 すらりとロゼリウスは腰に携えた自身の剣を鞘から引き抜き、フェリアの咽喉に掲げた。

「正体も分からない。目的も不明な事が多い。そんな奴は害となる前に排除する方がいい」

 きらりと鈍く光る銀の剣がフェリアの咽喉に触れる。
 ひやりとした感触に体を跳ねさせてしまうと赤い線が咽喉に引かれることになってしまう。驚きで暴れてしまいそうな体を必死に押さえていたが、たらりとひと雫がフェリアの額から流れ落ちることは止められなかった。
 そんな彼らを見ていたキトも、いい加減耐えられなくなり、声を出し始める。

「ロゼリウスさん……!  少しは話を、」
「黙れ。誰にものを言っている」

 ぎんっ、と厳しく鋭く射抜いてくる緑に、彼よりも小さいからだは一度臆してしまう。
 ロゼリウスはキトの上司にあたる人物。普通ならここはロゼリウスに従うのが最善だろう。
 しかしキトは顔を歪めると、固まる体を静かになんとか伸ばして言葉を続けた。

「っ、俺もこの人は怪しいと思います。ですが、」

 痛みに恐れることなく。白い手は銀の剣身をぎりりと握り、心のうちを叫び始める。すぐに斬ろうとするあなたの考えには頷けない、と。
 頭ではわかっている。怪しいものを放置することはできないことを。だからといって易々とひとつの生命が奪われるところを見ていられる訳でもない。

「のうのうと放って置いて害になったら如何する。そうなった場合、お前に責任が取れるのか」
「なら!  この人がそうでなかった時の責任は、あなたに取れるのか!?」

生命(いのち)はひとつしかない、とキトは辛そうに叫ぶ。
 失われたものは戻らない。それが生命であれば尚更。

 フェリアのことはよく知らない。
 でも、そんな彼女でも。よく知らないからというだけで易々と散っていい理由にはならない。
 ——だから護らなくてはいけないと、そう思った。

 そんなキトの背中に護られているフェリアの体がかたりと震えていた。そんな彼女に見えているのは、キトと重なる〝あの子〟。

  ──〝いのちはひとつしかないんだよ。だから……〟

「だから……たいせつに、して……」

 ぽつりとフェリアは涙を流しながら呟く。
 確かこの言葉は無理をして倒れた自分を心配そう見つめるあの子が言ったこと。いつだって無理をして笑っていた自分に、初めて心配してくれたあのひとが言ってくれたこと。

 そんなことを思いつつ黙るフェリアを護り叫ぶキトを、苦い顔で見ていたロゼリウスだったが、部屋のドアが急に開かれる音に指をぴくりと動かす。
 大事な話をしている時に誰だ、ときつい視線を向ければ、見えた薄緑の頭に瞳を大きく開いた。

「キース……」
「なら私が視ますよ」

 笑顔のまま、部屋にずけずけと入ってきたのはキースだった。そして場の状況を一瞬で理解して、ロゼリウスに向かってため息を吐く。

「ロゼもそんな物騒なものはしまってくださいな。駄々をこねる人は嫌われますよ?」
「別に好かれたい訳では……」
「はいはい。怖い顔は離れましょうねー」

 笑顔のキースに「はいは一度でいい!」と言いながらロゼは退散させられる。途中で器用に周りを傷つけないように、かちんと剣が鞘へ納められた。

 自分の咽喉に在った剣がなくなると同時に、フェリアは銃から放たれた弾丸のように体を素早く動かしてキトの手を取った。

「手は! 手は大丈夫ですか?!」

 声を荒げて顔は心配に染まっている。
 あまりの迫力にキトは驚いてすぐに返事ができなかった。その様子を痛みを感じている、と受け取ったフェリアは、更に顔の歪みを深くした。

「あ、ああ。切れてないから大丈夫だ」

 静かに開かれる白い手。そこから見えたものに今度はフェリアの顔は違う意味で歪められる。
 そこには傷などまったくなく、とても綺麗な手があった。傷だらけで深さも長く、血もたくさん出ているだろう、と予想していたが、全く違う姿の手に混乱していく頭。

おろおろとしているフェリアに、キトは安心させるように穏やかに微笑んだ。

() () () () () ()みたいだ。だから心配しなくて平気だから」

 言葉と様子を見ても理解ができずに混乱するフェリアの前にキースは立つ。
 今度はなんだ、とびくりと細い体が跳ねたが、キースも彼女を安心させるように自身の人差し指を自分の唇に添えつつ、ゆるりと笑った。

「大丈夫です。痛いことはしません。ただ、貴女の記憶の欠片を私に少しだけください」

 言葉の後にすう、とキースの琥珀が、伏せられた目蓋からゆっくりと姿を現す。薄緑に縁取られた金の瞳を見たフェリアは、微かに思うことがあった。

(この人……キトと同じ──)

 瞳の色が酷似しているふたり。ならキースもきっと、()に造られた存在。

 キトと同じ瞳を持っているからといって、自分に害の及ぶことをしてこないとは限らない。
 今度は逆にフェリアが警戒をして体に力を入れた時に、キースは目蓋を閉じてふむ、と呟く。

「大丈夫です。この方は害になり得る者ではありません」

 言葉にほっとしたキトから安堵の息が吐かれる。しかし続けられた「ただ秘密が多いようですが」というものに、場の空気がまた変わる。
 ロゼリウスがやはりか、と言いたそうに顔を歪めた。

「それすらもお前には視えているんだろう」

 いいから吐け、と冷たく言うロゼリウスにキースはにこにこと笑うだけだった。
 やがて痺れを切らしたような声が響く。

「おやおや。女性の秘密を暴こうなどとは……、ロゼはデリカシーがありませんねぇ」

 女心を知れ、とでも言いたそうなキースの言葉に、叫びそうになったロゼリウスはぐっ、と黙った。

「キースがそう言うのです。私は貴方が視えたものを信じます」

 緊張感あふれる場に、穏やかな声が聞こえる。にこりと笑ったままのミスティアに、キースも笑い返して応えた。

「ありがとうございます。……ですが、」

 笑顔のままくるりとキースはフェリアに振り返って、全員に聞こえるように言葉を紡ぐ。
 リュメアのことくらいは話してほしい、と困ったように言う顔に、フェリアは苦い顔をしたまま、重たい口を開いた。

「リュメアは……ある人物によって生み出され、この世界に放たれています。その創造主を私は……知っています」

 フェリアの言葉に全員が驚く。
 魔物は何かを糧に生まれてきているのだと、そこまでは分析されていてわかっていたこと。そしてそんな魔物を造っている人物もいるのでは、という考えもあった。

 自分の頭に浮かぶ最悪な考えが当たりませんように、と穏やかだった蒼の瞳が細められた。

 そして続けられる言葉は。

 その創造主たる人物は、彼はただひとりの女性(ひと)の為だけにしているということ。言葉から身勝手な欲望を達成するためにしているのだろうということがわかり、キトとロゼリウスの顔がぎり、ときついものへ変わる。
 そしてそれは後に訪れる可能性のある災厄──〝黒の災厄〟はその野望の最終段階計画だという。

 予想していた最悪なことが当たってしまった。
 〝黒の災厄〟は昔、天界で起こった大災害の名前である。それは人災と云われているが、生み出された犠牲は尋常ではないほど多大なもの。

 そんな惨劇であり悲劇を再び起こしてはならないと、ミスティアが顔をきつくした時、フェリアの頬を一筋の雫が伝った。

「しかし、その女性はそれを望んでいません。願っていません。『彼を止めてほしい』と私は彼女に言われたのです。だからっ……!」

 瞳に雫を纏わせながら叫ぶフェリアに、もういい、とキースが穏やかに彼女の肩を叩く。涙を出すほど感情的になっていたフェリアは感触に我に返り、少々落ち着きを取り戻した。
 訊きたいことはまだまだ山ほどある。しかし今の状態を見ると、また後日にした方がいいだろう。
 そう考えたキースがにっこりとした笑みを深めて、今度はキトの方を向く。

「それではキトくん。貴方にフェリアさんをお願いしてもいいですか?」

 にっこりと告げられる言葉に、理解ができないというような叫び声が上がった。

「どうして俺なんですか!?」
「そもそも彼女を〝保護〟したのは貴方でしょう?  それにフェリアさんは貴方と一緒にいたいみたいですから」

 上司命令です、と強く、有無を言わさない圧力を感じる笑顔で言われれば、キトはぐっと黙った。
 そしてそこへフェリアが最後の一撃、貴方と一緒がいいと首を傾げながら不安そうに言えば、キトも無下にはできない。
 やられたと思いつつも、再び「わかった」と大きく叫んだ。けど、災厄というものはキースたちに任せたい、と言葉を付け加えて。

 尋常ではないほど多大な犠牲を出した災厄など、正体がわかっても今の自分にはきっとどうすることもできない。なら、自身より能力と権力がある上司に任した方がいいと思うのだ。
 そう思うのと同時に、自分の無力さを知り、握る拳に力が入った。
 キトの言葉に彼の気持ちを汲み取ったキースがにこりと笑う。

「任せてください。そちらはフェリアさんに協力をしてもらいながら、きちんと私たちが責任を持って調べ上げます。──で、いいですよね?」

振り返ればロゼリウスは額に手を添えて盛大なため息を漏らしていた。ミスティアはというとにこりと笑っている。

「全く……話を勝手に進めるなと……」
「いいではありませんか。キースが仕切ってくれると綺麗に纏まりますね」

 貴女という人は、と言うロゼリウスから視線を移して、ミスティアはフェリアを優しく見つめる。とろりと細める瞳はまるで慈しむ母のように。そんな視線にフェリアはどこか懐かしさを感じた。

「ここ──アヴェリテルはフェリアさん(貴女)を歓迎します。さて、疲れているでしょうから、休む部屋を……。キト、貴方が案内してあげてくださいな」

 言葉にキトが応えて、頭が下げられる。フェリアも慌ててお礼を言いつつ同じことをすれば、すぐに三人は部屋から出ていった。
 ばたんと部屋の扉が閉められて、残った三人が視線を合わせる。

「さて、二人とも。やることは山積みです。これが終わるまで眠れませんよ?」

 ミスティアの優しく厳しい声が部屋に響いた後、ふたりはこくりと静かに頷いた。

 緊張感溢れるミスティアの部屋を出た時、体に感じていた重みがなくなったキトは大きく息を吐く。未知の力を持つことから上司の判断を仰ごうと、一番上の人物のところへ連れてきたが、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
 あのまま大事(おおごと)にならなくてよかった、と今度は安堵の息が吐かれた時、フェリアがおずおずと声を出した。

「あの。庇ってくださってありがとうございました」

 何のことだろうかと思うが、すぐにあれかと思いつく。

「いや、思ったことを言っただけだ。礼を言われることじゃない」
「でも、嬉しかったです。とても……」

 ぽう、と頬を染めながら感謝の意を伝えられたことにキトはぽりと頬を掻いて、フェリアが心配そうにまた言葉を紡ぐ。

「本当に手は大丈夫なんですか?  あんなに剣をしっかりと握っていたのに……」
「ああ。ロゼリウスさんの剣は〝望んだもの以外は斬れない〟という能力があるんだ。だからきっと……君のことも本気で斬ろうとは思ってなかったみたいだ」

 俺だけ熱くなって、なんだか恥ずかしいな、と照れながら言う。しかしあんなにも必死に、自分が傷つくかもしれないのに、それでも逃げずに護ってくれたこと。
 彼は恥ずかしそうにしているが、それがフェリアにとって、どんなに嬉しかったことか。

 もう一度、小さく感謝の言葉を零せば、キトが不意に手を差し出した。

「まだ君のことを完璧に信用したわけじゃないけど……。保護した以上、君のことは護るから」

 真剣な顔と眼差し、そして言葉にどきりとフェリアの胸が鳴る。頬をより桃色に染めて自身の手を自分の胸元に寄せた。

「は、い……!  あの、改めてよろしくお願いします」

 にこりと笑う顔に、やっと落ち着いたかなと思ったキトも微笑んだ。
 そして下からにゅっと小さい手が伸びてくる。

「ああ、コルも『よろしく』って言いたいんだよな?」

 むんとした顔に、必死に伸ばされる手にフェリアは微笑んでコルの頭を撫でた。

「はい。よろしくお願いしますね──」

 こくこくと頷くコルを見つつ、あとは呼ぶ名前だな、と思ったが、なんて呼べばいいのかがわからない。
 無難なものなら大丈夫だろうか。しかしそれも相手にとっては嫌かもしれない。
 これなら聞いた方が早いなと思い、質問を更に投げる。

「えっと、フェリア、さん?」
「いえ、フェリアと呼んでください」

 でも、と渋るキトにフェリアは柔らかく笑う顔はまるで、全てを赦すかのような愛しみ深いものだった。

「私もキト、と呼ばせていただきますので。それに、あなたにそう呼ばれると、くすぐったいです」

 くすくすと笑うフェリアに、キトは微笑みながら「ああ、わかった」と呟く。

「コルもコル、でいいよな?」

 うん、というようにこくりとコルは頷けば、にこりとフェリアは嬉しそうに笑った。


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 薄暗い部屋の中。月明かりが差し込む窓際にフェリアは座って月を見上げていた。

「これで──よかったのですよね……?」

 手には彼女が胸にずっと付けている紫と深い蒼の宝石が金属で繋がったペンダントがあり、月の光を受けてきらりと光る。
 愛おしそうに指で宝石部分を撫でてから頬に寄せて、小さくぽそりと呟く。

「……、桜花さま……」

 声に応えるかのように。ぽう、とペンダントの深い蒼の宝石が微かに光った。


2025.03.10


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