重なるもの

 紫がゆたりと笑う。それは穏やかに漂い、穏やかに消えていく。

「キト、どうかしましたか?」

 大きな紫がキトの金を覗き込む。ぼーっと仲間たちを見ていたキトは急に声を掛けられたことと、自分の顔を覗き込まれたことに驚き、瞳をぱちくりとしていた。

「キト?」

 もう一度、自身の名前を呼ばれて、その手が頬に触れる。
 触れた手は自分の頬よりも温かい。そしてこの手は昔にも自分に触れていてくれた気がする──そう記憶の海を漂っていれば手がゆっくりと動く。
それによってキトはやっと意識を覚醒させた。

「っいや! なんでもない……!」
「ですが、反応がなかったので……」

 心配そうに顔を歪める女の子──フェリアはそう言いながら自身の羽を少しだけ下に向ける。ばさりと音を立てる羽は空の色をしていて、ここで見ることは珍しい。

(ああ、やっぱりこの色は……)

 キトの中の憶測がちらついていく。そして何を思ったか、キトは自分の手をフェリアの羽に伸ばしていた。

「触りたいのですか?」

 びくり、身体が大きく跳ねる。
 自分のしようとしていたことを理解したキトは顔を赤に染め上げた。

「いやいや! ごめ、なんでもない!」
「さっきからそればかりですね」

 くすり、笑い声と柔らかい笑った顔が見える。フェリアは嬉しそうに笑い、それにつられてキトも微かに笑った。

「キトならいくらでも触っていいですよ」
「あのな、そんなことは簡単に言ってはいけないぞ?」
「本当です。私、きみになら──……」

 嬉しそうに歪む顔がキトの記憶の中にいる〝彼女〟と重なった気がした。

2020.11.05

あとがき
本編の中間くらいかなと思います。
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