第1幕 第04曲 「遠いむかし噺」
「大体の話は
女性から話を聞き終わった後に、ため息がひとつ零される。
「あの、まだなにか……?」
話が足りないところがあるのだろうか、とか、自分が何かいけないことを言ってしまったのだろうかとか、様々なことを女性が考えていれば、ゼスは冷たい瞳のまま口を再び動かした。
「依頼は〝主人を助けて欲しい〟……助けるという中で、お前の旦那を消す——という可能性も含まれるが、それでも本当に依頼する事を望むか?」
消すということ——すなわちもう二度と会えないかもしれないということ。
ゼスの言葉に女性は驚いていたが、やがて見える覚悟を決めた力強い瞳。
「それであの人が……救われるの、なら」
今にも泣き出しそうな雰囲気だが、力強く言う彼女に、ゼスは小さく「わかった」と頷く。
「おかあさん……」
そんな女性の雰囲気を察したのか、幼い少女はぽつりと呟く。しゅんとして下に俯き、小さい手をぎゅっと自身の膝上で握って、微かに震える小さい身体。
そんな手を白い大きな手が包み込んだ。
「おねえ、ちゃん」
「大丈夫ですわよ。きっと、大丈夫」
穏やかに笑い、優しく語りかける。そんなルティナに安心したのか、絵本に再び視線が注がれた。
「——〝まおうとぼうこくのひめは、まちをつくりました。そしてそこでさまざまなひとを……〟」
ふたり一緒にゆっくりと絵本をなぞる。そんなルティナの声は穏やかだが、表情はどこか哀しそうで。
「——〝そしてふたりはいつまでもいっしょにすごしました〟……終わりですわね」
物語の終わり。最後の挿絵には幸せそうな姿の魔王と亡国の姫。
互いに寄り添い微笑み合い、世界中のみんなからふたりの
そんな
「……ほんとうにこうだったら、よかった……、のに」
酷く顔を歪めて呟く蒼の瞳。それらは一瞬で、それでいてあまりにも小さいもので、出した本人以外には見えなかった。
すぐに顔を明るくして幼い少女に微笑む。
「あなたはどうして、この絵本が好きなんですの?」
「あのね、しあわせそうなまおーさまと、ひめがね、うらやましいの」
「羨ましい?」
「だってずっとわらってるんだもん。それっていいことでしょ?」
おかーさんとおとーさんもこうだったらいいのに、と小さく震えながら呟く。
きっと夫婦は仲が悪いわけではないのだろう。しかし幼い彼女が見たものは、醜く歪んでしまった父と、その姿に悲しみ涙を流す母。
そんな姿を見た彼女が心に負った傷を思えば、胸が苦しくならないわけがない。
ルティナは気がついたら腕の中に幼い少女を抱いていた。
「大丈夫、大丈夫だから……」
小さい頭を震える手で撫でるが、かける言葉がみつからない。
きっとどんな言葉を彼女に投げかけても、慰めにもならない。
「おねえ、ちゃん……くるし、い」
思ったよりも力が強かったのか、幼い少女は苦しさを訴え始める。声にはっとして、ゆっくりと腕の中から彼女を解放してから質問をもうひとつ投げた。
「……お父さんとお母さんは、すき?」
「うんっ、だいすき!」
言葉の答えをすぐに貰う。
無邪気で明るい笑顔で答えられ、ルティナも釣られて笑顔になった。
2025.02.19