機械仕掛けのパルティータ 序曲

 降り続ける“赤い雨”。
 生暖かいそれはすべてを飲み込み、すべてを朽ちさせていく。

 その中でぽつりと佇む黒いもの。そして彼の腕の中にはすでに息絶えた蒼い少女。
 歪んだ顔で彼女を抱きながら、彼は赤い雨を体に受けていた。

 ふと、ぱち、と悲惨な状態に変わり果てた国を覆う黒い炎が鳴る。
 ゆらゆらと揺れる炎は赤い雨を受けながらも、勢いが衰えることはない。

 ぱちりと炎がまた鳴った時、静かに動き出す血色の悪い震えた唇が、この惨状を物語っていた。

 そして少女が真紅の瞳にゆらゆらと揺れながら灯されて紡がれること。

「絶対に助ける」

 それは誓いにも似た言葉だった。
 抱き寄せた至るところが欠けている体は冷たく、彼女がもうここにはいないことを黒い青年に伝えている。

 そんなことは理解(わか)っている、とでも言うかのように、ゆらりと光る彼の紅い瞳は光を失い、こぼれ落ちた雫が少女を濡らした。

 青年の哀しみが彼女の頬を伝った時、再び動く彼の唇が叫ぶ。

「たとえ、すべてを犠牲にしても——!」


2024.10.15

あとがき
「機械仕掛けのパルティータ」開始です。
これから彼らの辿る道がどんなものになるのか私も楽しみなので、よろしくお願いいたします〜!
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