蒼い瞳で呟く

 ぱちりと目蓋を開ければ桃が見えた。

(のど、渇いた……)

 隣にいるクライヴにそっと手を伸ばせば、手が温かさに包み込まれる。
そのまま手をするりと滑らせて首筋をなぞる。微かに聞こえた声と反応に、自分が抑えきれないセティアはそのままクライヴに跨った。

「……ん、」

 さわさわと首筋を指で遊んでいれば、クライヴは微かに動く。
香りに誘われるがままに唇を近付ければ、香りが強くなる。

(勝手に飲んだら……怒る、か……?)

 それすらも「いいよ」と許される気がして。

 牙をくぱりと開けて歯を立てようとした時、クライヴの手がセティアの頭に触れた。

「飲んでいいよ」

 びく、と跳ねた身体をクライヴは手で押さえつけるようにして固定する。逃げられない状況を抵抗するかのように、セティアは体を捩るがそれは許されなかった。

「喉が渇いているんでしょう?」
「……」

 言葉を発しないことを肯定だと受け取ったクライヴは誘うようにして、顎をくっと上に向けて首筋を彼女に差し出す。
曝け出されたものには赤々とした点がいくつも付いていた。

「いら、ない」

 絞り出した声を聞いたクライヴは手の力を緩める。自由が効く体になり、セティアはクライヴの腕からするりと抜け落ちた。

(今、()の血を飲んでくれたら、()()のことを——)

「消せたのに、」

 蒼く染まりながら呟いた言葉はセティアの耳に触れることはなかった。

2022.07.23

あとがき
クライヴが「蒼い瞳」の時にセティアが彼の血を飲むと、セティアのことを「消す」ことができる、という設定が急に降ってきたので書いてみたもの。
この設定を採用するかは悩み中です。
close
横書き 縦書き