あなたがいてくれる

 何もできない自分が憎くてたまらない。隣で声を上げながら痛みに耐え続ける彼女を助けることすらできない。

 ぎゅ、と()()を握り締めて、夜な夜な繰り返されることが終わる時を、ただただ待っていた。

「……ディ……リディ……っ!」

 ゆっくりと重たい目蓋を開ければ、心配そうに顔を歪めているリオシスの顔がぼんやりと見えた。その表情が次第にはっきりとしていき、涙が浮かんでいることに気がつく。

「り、お……しす……?」

 痛む咽喉(のど)を震わせながら彼の名前を呼べば、余計に顔は歪んでいく。

 ここに彼の気配はなくなっている。なら、あれは終わったのだと、リディは安堵の息を吐いた。

「ごめ……ぼく、僕は……何もできな……」

 はらはらと涙を流しながら謝罪をするリオシスに、リディは優しく笑いかけた。

「リディ……?」
「大丈夫……わたしを守って……くれたんでしょう……?」

 ふらりとリディが握った先は、リオシスが痛い程に握り締めている右手だった。その下からは水晶のペンダントが姿を見せ、きらりと光った。
ふるりとリオシスは首を横に振ってそのことを否定する。

「こんな、の……守ったなんていえな、言えない……!」

 ぼろぼろと涙を流しながら叫ぶリオシスに、リディは笑いかけ続ける。

「大丈夫。大丈夫だよ。辛くないから……だからそんな表情(かお)、しないで──」
「でも! 兄さんがしていることは……君にとって辛いことであるはずなのに……!」

 僕も君と一緒に、ここから逃げ出せればいいのに、とリオシスは辛そうに叫ぶ。

 リオシスの兄に自身の魂の半分を握られている彼は、兄の命令(呪縛)によってここから逃げ出すことができない。何度もそうしようとしたが、その度に身体が痛みで喘いだ。
 そんな彼にできないことを望みたくはないと、リディは目蓋を閉じる。

「リディ……? どこか、痛いの……?」
「ううん。いたくないよ。あなたが傍にいてくれるから」

 そろりと頬に触れる、自分とは違って温かい手を感じながらリディは微睡に落ちた。

2021.02.15

あとがき
ぼやけた記憶を思い出しながら書いたリオリディ。
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